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大阪高等裁判所 昭和44年(ネ)84号 判決

理由

一、《証拠》を綜合すると、被控訴人は控訴人に対し、被控訴人が請求原因で主張する(一)(二)および(四)の貸付をなしたことが認められる。

尤も、前掲証拠によれば、右貸付の方法は、右各貸付の期日に、その都度控訴人から、訴外三協株式会社が訴外関西建設資材株式会社宛振出した、右後者の第一裏書(名宛白地)のなされている各貸付金額を額面金額とし、右認定の弁済期日を満期日とする約束手形に控訴人の第二裏書のあるものを交付させ、各貸付の日から各手形の満期日までの金利を右手形金額から天引した金員を交付したものであることが認められる。そうだとすれば、右はいわゆる手形割引による割引金の交付の性質をも有すると認められるけれども、前掲証拠と《証拠》を綜合すれば、被控訴人は本件取引に先立つて、控訴人が代表取締役をしていた訴外有隣株式会社(後有隣不動産株式会社と商号変更=以下これを訴外有隣と略称する。)との間で融通手形を交換し合い、若しくはこれに手形貸付をするなどの取引を継続していたところ、本件取引の頃にも訴外有隣から金融を申し込まれたが、当時訴外有隣がすでに資産状態悪化し、同会社に対して金融を続けることは危ぶまれたので、被控訴人は、その代表者である控訴人個人が債務者となるなら、控訴人に対して金融してもよく、それには控訴人個人が裏書をした手形を差入れて欲しいと返答したところ、控訴人は使者をして各期日に前記の様な約束手形を持つて行かせたこと、被控訴人は右約束手形の振出人および第一裏書人である三協株式会社や関西建設資材株式会社はいずれも控訴人が訴外有隣が左前となつたため新たに作つた会社で、その実体は控訴人の息のかかつたものと考えていたこと、従つて被控訴人は、前認定の様に本件約束手形の割引という方法で金員を交付はするものの、右手形振出人の信用を確めて手形を買取るとは考えず、手形の実質的価値いかんにかかわりなく、あくまで控訴人個人の信用に重きを置き、これに一定期間金員を利用させるという考えで右金融に応じて手形割引の方法によつて、前認定の金員を交付したことが認められるから、右金員の交付について手形割引の性質をも有することは、これを他面右手形金額に相当する金員を目的とする金銭消費貸借契約が成立していると認定することの妨げとはならない(昭和四一年三月一五日最高裁判所第三小法廷判決(判示前段)参照)。

なお、前認定のとおり手形金額から割引料に相当する満期までの一定率による金額を差引いて交付した点についても、一般の消費貸借において名目元本に対する一定期間の利息を天引して残金を交付した場合と同断であつて、要物性は名目元本(手形金額)全額について存するものと認めるのが相当である。(前掲判決(判示後段)参照)。

二、控訴人は前掲甲第一、二および同第四号証の手形も後記同第三、五号証の手形と同じく、従前訴外有隣が振り出していた融通手形の差換えとして代表者たる控訴人個人名義の裏書をして交付したものであり、現実の金員の交付はないと主張するが、《証拠》によつても、甲第一、二および同第四号証の手形については割引をして貰つたものであることが明らかに認められ、他にこの点を覆えすに足る証拠はない。

また、右乙第一号証によれば、右各手形の割引による金員(本件貸付金)は訴外有隣が受領した如くに同会社の帳簿に入金記帳せられていることが認められるけれども、右は訴外有隣内部の処理として、割引金を代表者である控訴人が受領し、さらに控訴人から訴外有隣に融通した実体を省略して直接訴外有隣が割引いて貰つたものとして記帳していたものと認められるから、右本件取引が訴外有隣の帳簿に記帳せられていることは何ら控訴人を債務者とする前認定の妨げとなるものではない。

《証拠》中前一項の認定事実に反する部分は、前掲各証拠に照らしたやすく措信し難く、他に前認定を左右するに足る証拠はない。

三、次に被控訴人は、請求原因の(三)および(五)に主張する貸付についてもその事実があると主張し、成立に争いのない甲第三および五号証は、各被控訴人の主張する金額を額面金額とし、同弁済期を満期日とする訴外関西建設資材株式会社振出の控訴人宛約束手形であつて、各控訴人の裏書が存する。そして、当審における被控訴本人の供述によると、右二通の約束手形も前記甲第一、二および同第四号証と同じ様に控訴人に対し割引いて割引金を交付したものであると供述するが、右被控訴本人の供述だけでは、甲第三および五号証の手形も前記甲第一、二および同第四号証の手形と同じく、被控訴人が割引によつて取得したものであるとの心証をひき難く、かえつて《証拠》によれば右は控訴人が主張する如く、従前の手形の差換えの趣旨で交付されたに過ぎず、割引かれたものではない疑が極めて濃厚であつて、結局甲第三および五号証の手形に関してはこれを割引の方法によつて金員を貸付けたものであることの証明が充分でない。

よつて請求原因(三)(五)の事実はこれを認めることができない。

四、従つて被控訴人の請求は請求原因(一)(二)および(四)の貸付に基づく元本合計八〇万円とこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四二年一〇月二八日以降完済に至るまで年五分の割合の金員の支払を求める限度において正当として認容すべく、その余は失当として棄却すべきものである。

よつて、被控訴人の請求全部を認容した原判決は右の限度においては正当であるが、その余は不当であるので、民事訴訟法第三八六条に従いこれを変更

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